遠い夏の少女
あまりの驚きに立ち上がろうとするが、下半身に力が入らない。
口の中が異様に乾く。
自分の額に不快な脂汗が浮かぶのがわかる。
な、なんなんだよ………
かろうじて、口出た俺の言葉はかすれていた。
俺の言葉に反応するように、俺の右手に触れている存在は柔らかく、そして力強く手を握り締める。
自分のすぐそばに何かがいる。
そして、それは俺の手を掴み、離さない。
その現実をかろうじて理解することはできる。
だが、同時にそれは理解の範疇を超えた理解出来ない現実でもある。
恐怖なのだろうか、俺の体から不快な汗が噴き出す。
それと同時に全身に震えが走る。
大丈夫、そんな怯えないで
どこかから、突然声が聞こえた。
いや、本当に聞こえたのか?
なんとなく、耳からではなく直接頭に響いた気もする。
だ、誰だ
な、なんなんだよ
かすれた俺の声が部屋に響く。
その声に呼応するように、再びあの声が聞こえた。
私よ、健一君、驚かしちゃったかしら、ごめんなさい
俺の名前を呼びやがった。
なんなんだよ、いったい
俺は部屋を見回す。
だが、光ひとつない部屋は暗闇に包まれなにも俺に見せてくれなかった。