遠い夏の少女
私のこと覚えてないの?
なんだぁ、冷たいなぁ、健一君
私の名前、美穂よ
闇の中から直接俺の頭に響くような声が聞こえる。
み、美穂だぁ?
だ、誰だよ!
し、知らねぇよ!
た、頼むから、消えてくれ!
俺は怒鳴るように声をあげた。
ひどぉい、健一君
私こと覚えてないのね………
来て損しちゃった
健一君がつまらなそうに生活してるから励ましてあげようと思ったのに
その声とともに、俺の握られた手から悲しみともとれるような感覚が伝わってきた。
先ほどまで、柔らかく温かかった手を包む存在は、少し硬く、そして少し冷たく変化したような気がした。
損したと思うなら、そのまま帰ってくれ
俺はアンタのことなんて知らないし、俺がつまらなかろうが楽しかろうが、アンタには関係ないことだろ?
この現実を受け入れたわけではないが、売り言葉に買い言葉みたいに、俺はその声に言い返してやった。
するとその言葉に反応するように、俺の手を包む存在は熱を帯びた。
もう、健一君の分からず屋!
あなたね、今のままでいると死んじゃうのよ!
死神が取り憑こうとしてるのよ!
無気力に生きてる人間は狙われやすいの!
こうなったら強硬手段にでるからね!
俺の言葉に激昂したかのように、その声は響いた。
まったく、ひとの話を聞きもしないで………
イヤでも思い出させてあげるわ
その言葉と同時に、俺の手を包んでいた存在は急激に広がり始めた。
まずは右肩まで一気に包み、そして胸、腹、足へと広がった。
そして、その流れのまま左腕をまとめて包み込んだ。
俺がその存在を感じていないのは頭だけになった。
ふふふ
私のファーストキスなんだから、感謝してよね
そんな言葉が聞こえた気がする。
俺の口に何かが入り込んできた気がした。
そしてそのまま頭が包み込まれた。