遠い夏の少女


意識が薄れていく。
なにかとても心地よい感覚が頭の中に広がっていく。

全身の力が抜け、重力を感じさせない空間に浮かんでいるような気がする。

抗うことが出来ない。
なんなのかわからないが、俺はこの心地よさにすべてを預けた。



闇の中の黒い世界に色がつき始める。
セピア色の世界が姿を現す。

懐かしいような不思議な感覚に心がざわめく。



ここは、いったい………



どこか、遠い昔に見たような気がする風景が浮かぶ。




あぁ、思い出した
ここは、じいちゃんの住んでいた田舎だ

そうだ、これは俺が子供の頃、夏休みになると来ていたじいちゃんの家から見る風景だ




子供の頃、学校が夏休みになると、俺はじいちゃんの家で夏を過ごした。

共働きの両親にとって、息子の夏休みは少し厄介なものだったらしい。

そんな折り、孫に会いたがる祖父母との利害が一致したらしく、両親は夏休みの間、俺を祖父母に預けて働いていた。

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