遠い夏の少女


うん、確かに言われると思い当たる節はあるけど………

どうして美穂ちゃんにそれがわかるんだ?


心に浮かぶ疑問を彼女にぶつける。
彼女の顔は闇の中で諦めに似た笑みを浮かべた。



私ね、もう死んじゃってるの

もう、ずっと前にね

あなたのおじいさん達のお葬式あったわよね

あれから3ヶ月後
事故に遭ったの


俺は彼女の言葉に息が詰まる。
背中に変な汗が流れるのを感じる。

そしてなにも言葉を発する事ができなくなった。



すごく、悔しかったんだ

すごく未練があったんだ

私ね、健一君には昔聴かせたことあったと思うけど、バイオリンに打ち込んでたんだ

音楽大学に進学することも決まってたの

それなのにね、事故で死んじゃったから………

未練のせいでしょうね

ずっとこっちの世界を離れることができないの



彼女は闇の中で悲しく瞳を閉じた。
彼女の悲しみが伝わってくる気がする。


だからね、しかたなくフラフラとこっちの世界をさまよっていたの

長いことそんなことをしてると、色々見えてくるのよ

それで、死神って存在がいることにも気付いたの

彼等は弱った人間の心の隙間にジワジワとダメージを与えて、その人間の生命を奪っていくの

何人もの人間の生命が奪われていくのを見てきたわ

ある人は自殺してしまったり、またある人は精神の病から始まり最終的に肉体を病んでしまったりして………



闇の中の彼女は嫌悪感を露わにした表情を浮かべていた。

< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop