付き合ってる相手が、アイドルでした。



「あぁ、アイドルグループ、アルタイルのメンバーの名前と一緒ですよね。私、実はファンでお名前見た時、一瞬、ドキッとしちゃいました。」
「だから、お前、ファンて、はぁ?」
「同姓同名だと、何かと言われたりしますよねぇ。」
「お前、ファンなら分かれ、その恵藤昴が俺だ。お前の目の前にいるのが、その恵藤昴だ。」



 息を吸うのを忘れて、何回も瞬きをしたのを覚えている。
 だって、テレビ画面越しに見る彼らはいつも、キラキラ光る衣裳を着ていて、髪の毛も綺麗にセットされていて、スポットライトを浴びている。間違っても、病衣(前で紐で止める浴衣の様な服)を着て、髪の毛も寝癖がついてなんていない。



「何だ、新曲の一つでも歌えば信用するか?」



 そう言って彼は、1週間ほど前に発売されたばかりの曲のサビを歌って見せた。



「え、あぁ?えっ、わ?昴さまっ?」
「やっとわかったか、鈍いヤツ。で、お前の名前は?」
「え、薄野千穂です。」





 それが出会いだった。
 その後、何故か彼からケータイの番号を教えられ、食事に誘われ、告白され、付き合いだした。
 人目を忍んで、密会するようにデートしなくてはいけないこと以外、彼はいたって普通の人だ。いや、月に数回しか会えないとか、平然と深夜の3時に連絡が来るとか、ちょっと世間からはずれているのかも知れないが、昴自身は普通の人だった。
 いや、待て、普通の人、というと違う。
 確かに、彼はアイドルだ。
 躊躇いもせずに高級店に入るし、自分がカッコいいことも、影響力もあることも、特別な人間だと言うことも知っている人だ。
 
 でも、私が言いたいのは、普通の男の人と同じで部屋は汚いし、カップ麺を平気で夕食にするし、風邪もひくし、盲腸にもなる。つまり、現実世界に存在する人間だと言うことだ。


< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop