付き合ってる相手が、アイドルでした。
そして、昴がメンバーに会わせるといった水曜日、私はピンチを迎えていた。
昴を家に呼べない理由、出来ればメンバーに会いたくない理由が、私にはあった。
「こいつが、話してた千穂だ。で、右から、六花、祐介、桃太、愛司だ。」
「もー昴君も、わざわざ紹介しなくたって、千穂ちゃんは僕らのこと知っててくれてるんでしょ?」
顔合わせがされたのは、昴のマンション。
高層マンションの天辺で、マンションの敷地に入るのにカードキー、マンションの建物に入るのに指紋認証、さらにエレベーターで最上階ボタンを押すのにパスワード、とどめに部屋に入るのに音声認識。もう、何重にもロックされていて、私は到底一人では昴の部屋にはたどり着けない。
「千穂ちゃん、初めまして、リーダーの六花です。昴君がお世話になってます。」
アイドルと同じ部屋にいる。
もちろん、昴もアイドルだ、それに間違いはないのだが、そんな彼らが私に手を差し伸べて握手を求めてきている。
部屋中が彼らの放つオーラで星が瞬いているみたいに眩しいのに、これ以上は同じ空気を吸うのも胸が痛い。
「あぁあ、あの、あの、あぁ。」
「もう、六花、千穂ちゃんが緊張しちゃってるじゃないか。千穂ちゃん、いつも応援ありがとう、お目付け役の愛司です。これから、よろしくね。」
「あぁ、あ、あの、あの、あの、その、六花さん、あの、私、その、六花さんの大ファンで、デビュー当時のユニットの時から、追いかけてるんです!」
言ってしまった。
言わないように、決意して来たのに、言ってしまった。
彼らは今、仕事で私に会っているのではない。昴の友人として、私に会ってくれているのに、私も友人の恋人として会っているのに、アイドルとファンになってはいけないと決めて来たのに、無理だった。
アルタイルのリーダー、六花さんに私はもう10年近く熱を送っている。
そんな私の憧れの六花さんが、私服を着て、私と同じ空気を吸っているのだ。落ち着くはずもなかった。
「千穂ちゃん、僕の子猫ちゃんなんだ。嬉しいな。」
「すみません。ごめんなさい。お仕事させちゃって、あの、次からはちゃんと。」
「そっか、ちゃんとそう言う風に思ってくれる子で、僕安心したよ、昴君をよろしくね。」
そう言って、六花さんはアイドルの時には見たことのない、優しい笑顔で私に再び握手の手を伸ばしてくれた。
今度こそ、冷静に握手をしようとした私の目の前で、昴が思いっきり六花さんの手の甲を叩き落とした。
バシンと盛大な音が、リビングに響いた。