鬼姫伝説Ⅲ
「それ、大事なもの?」
「え?あ、これ・・・」
琉鬼さんに指差されたその先を見て私は呟いた。
お母さんから借りたくしが入っている巾着袋。
返しそびれてそのまま持ってきちゃった。
お母さんが大事にしていたものなのに。
「お母さんの、大切なものらしいんです」
「らしい?」
「どういう物なのか、私も聞いてないのでわかんないんですけど」
「そうなんだ」
「はい。くしなんですけど・・・」
そう言って中からくしを取り出して見せた。
琉鬼さんは興味深そうに覗き込む。
「可愛いね」
「はい。貸してもらったまま返しそびれてしまって」
「そっか。早く返せたらいいね」
「はい・・・」
でも、お母さんはもう、私なんて返ってこないほうがいいのかもしれない。
このくしだけ返せる方法があればいいのに。
誰かにもらった物なのかな。
そんな事すら、知らないんだよね。