恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
俊平は仁奈を見る。体型や髪型だけでなく、プリーツスカートの丈も、ブレザーの中に着ているキャメルのカーディガンも、すべてが同じだった。
――彼の、初恋の相手と。
「香坂」
「……なに」
「俺の下の名前知ってたっけ」
「……俊平、でしょ?」
それが何?といわんばかりに上目づかいで彼をにらむ仁奈。
俊平は、自分より二十センチ余り背の低い彼女を見下ろし小さくかぶりを振ると、こんなことを言った。
「ちょっと、違う。“しゅんぺい”じゃなくて、“しゅんぺー”」
「……同じじゃん」
「いいから。言えたらしてやるよ、キス」
仁奈の顔にぽっと紅さが広がる。
そのわかりやすさまでもが、俊平に初恋の相手を思い起こさせ、彼はこの一瞬、仁奈が生徒であると言うこと、自分が教師であること。そして自分に婚約者がいるということをすべて忘れた。
(……カヤ)
俊平が見ているのは仁奈本人でなく、彼女によく似た別人であることなど知る由もない仁奈は、もじもじとスカートの裾を弄っていたかと思うと、意を決したように顔を上げ、俊平の瞳を見つめて言う。
「……しゅんぺー……キスして」
どくん、と血液が逆流するような錯覚を起こした俊平は、仁奈の後頭部をつかんで引き寄せ、荒々しく唇を塞ごうとした。
……けれど。