恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「……何で俺が知ってるかとか、そういうの、今度ゆっくりちゃんと話すからさ。沢野は、自分の身体優先にして、とにかく無理はしないって約束して? ……困ったときは、俺でも中野でも、頼っていいんだから」

「せんせ……」


(……さすが、女性にモテる人は、慰め方が上手いな……)


夏耶は思わず目尻から涙が伝ってしまった理由を、そんな冗談でごまかし、目元をごしごしと服の袖で擦った。

桐人の優しさに心を救われるのは、これで何度目だろう。

胸に沁み込んだ優しさがとくんと心臓を揺らして、桐人を見つめる瞳がかすかな熱を持ったことに、夏耶はまだ気づいていない。


「ありがとうございます……私、頑張ります」


少しスッキリとした表情で彼を見上げた夏耶に、桐人は「あれ?」と苦笑する。


「……おれ今、頑張らなくていいよって言ったつもりだったんだけどな」

「あ、ええと……はい。無理は、しません」

「ん。ならオッケー。……じゃ、そろそろ中のおっかない刑事がキレる頃だと思うから、俺ちょっと現場行ってくる」

「はい。私は、ここで待ってますね」


そうして部屋の前で別れた、桐人と夏耶。

そんな二人の様子を、物陰から見つめる一人の男がいた。


彼は夏耶がひとりになったところを見計らい、ゆらりと彼女の前に出て行くと、こう言った。


「あのう……僕、あなた方が調べてる事件のことで、少しお手伝いできるかもしれないんですけど……」


夏耶は彼が誰なのか全くわからなかったが、事件の情報を知っているとあれば話を聞かない手はない。

現場を一緒に見ることができない代わりに、桐人の役に立つことができるならと、外に出て彼の話を聞いてみることにした。


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