恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「県立西條高校同窓会……日付は、ひと月前か」
桐人が呟くと、津田も後ろからそのハガキを覗き込む。
「当然被害者は行っただろうな。……不倫相手は高校の同級生なんだから」
「その不倫相手には、直接会ったのか?」
「いや、俺は会ってない。……確か金属工場の作業員で、地味で真面目そうな印象だと聞いた」
「地味で真面目そうねぇ……ソイツ、怪しくない?」
根拠はないが、直感で桐人はそう思った。
津田がまだ会っていないという話を聞いて、なおさらその疑念は深まる。
「怪しくないとは言えないが……その男……三河(みかわ)とか言ったな。三河は事件当夜アリバイがあるんだ」
「そのアリバイ、第三者が証明できた?」
「ああ。勤務先のタイムカードがそれを証明してる」
(タイムカード……? そんなものは、他人でも打てる……)
桐人は真犯人が彼だとほとんど確信し、津田にこう尋ねる。
「……そもそも。三河が被害者の“不倫相手”だという情報は、三河自身がそう言ったってだけなんだよね?」
津田はぴくりと眉毛を震わせ、まさかという顔で桐人を見る。
けれど桐人は臆せずに、自分の推理を述べた。
「……三河が一方的に被害者に好意を寄せていたとしたら、どうなる? ……同窓会以降アプローチを仕掛けても一向に自分に振り向いてくれない被害者のことは憎くなる。当然、夫である増本さんのことも」
「お前の話も一理あるが……それでも、まだ密室の問題がある」
「それも意外にシンプルなやり方なんじゃないかな。例えば、同窓会で泥酔した被害者の鞄から家の鍵を抜き取って、合鍵を作る。そして、それを使って事件の夜はこの家に侵入した……できないことではないですよね?」
警察は、事件後すぐに夫である増本に疑いの目を向けていたため、合鍵の存在まで調べていない。
津田は桐人に捜査の甘さを指摘されたような気がして、忌々しそうに舌打ちをした。