恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……まぁ、ただの部下ではない、かな。誰より幸せになって欲しいんだよ、彼女には」
(俺の手で幸せに――――とは言えないのが、ツラいところだけど)
桐人の心の内を知る由もない津田は、桐人らしくない言葉に耳を疑い、怪訝そうに眉を顰めて言う。
「……なんか変なモンでも食ったか」
「はは、自分でもそう思う。……ホント、最近俺なんかおかしくて」
軽く笑い飛ばした桐人は、いまだ不気味そうな顔で立ち尽くす津田を追い抜かして、先にエレベーターに乗り込んだ。
*
それから彼は、地上に着くまでの間に何度か夏耶に電話をしてみたが、全くつながらなかった。
小さな胸騒ぎがして、警察署に向かう前に一度、事務所に立ち寄ることにした桐人。
そこに夏耶がいれば安心なのだが、と思っていた矢先、彼を待っていたのは、最悪の知らせ。
「……相良さん! 落ち着いて聞いてください、沢野さんが……」
青い顔をした豪太に伝えられた事実に、桐人の頭がガンガンとうるさく鳴った。
どうして彼女を一人にしたんだろう。
――犯人は現場に戻ってくる。
その可能性を失念していたなんて、敏腕弁護士が聞いて呆れる。
自責の念にとらわれた桐人は、苦しげに眉根を寄せて、しばらくその場に立ち尽くしていた。