恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
13.Country road
「俊平、飲み過ぎだって」
「うるせー……好きにさせろ」
「つかお前、明日も学校だろ? さすがに教師ともあろう者が、二日酔いで生徒の前に立つってのはマズイんじゃね?」
俊平が相良法律事務所を訪ね、夏耶に会うつもりが思い切り桐人にやり込められたあの屈辱の日から、約ひと月。
彼は、地元の居酒屋で友人たち二人と酒を飲んでいた。
中学高校の同級生で、かつバスケットボール部でも一緒だった三人が会うのは久しぶりのこと。
俊平以外の二人はすでに家庭持ちで、今までなかなか会う都合が付かなかったのだが、今日は偶然にも皆の予定が空いていた。
「……学校は、もう行かねー」
「は?」
「あ、やっぱちげ。行かねーじゃなくて、“来るな”だ」
ひと目で酔っているとわかるほど顔を赤くした俊平が、そう言ってひとり乾いた笑いを洩らす。
友人二人は顔を見合わせ、声を潜めて俊平に尋ねる。
「……来るな、って、どういう意味だよ?」
「まさか謹慎処分とか? お前、いったい何やらかした?」
謹慎なんて、生ぬるいものならまだよかった。
しかし俊平は、もう二度と教壇には立てないのだ。
教師にあるまじき、ある理由で。
「……似てたんだよ、カヤに」
居酒屋の喧騒のなかに、俊平がぽつりと呟いた言葉。
それは友人たちが投げかけたの質問の答えにはまったくなっていなかったが、“夏耶”の名は彼らも聞き覚えがある。
背が低くて可愛い、俊平と幼なじみのあの子。
どこからどう見ても両想いなのだからさっさと付き合ってしまえ、と。
二人の友人は、当時の俊平を何度けしかけたことだろう。