恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……なんでここに夏耶ちゃんの名前出てくんの?」
訝しげに友人の一人に聞かれて、俊平は焦点の合わない瞳を揺らしてぼんやりと話した。
「……そか。お前ら、同窓会来れなかったんだっけ」
「そーそー、ヨメが行かしてくんなくて……あ、夏耶ちゃん来てたんだ?」
「来てたよ」
「まさか、久々の再会に盛り上がってヤッちゃった系? ……さすがにそれはねーか。だってお前、結婚すんだろ今度」
黙り込んだ俊平に、友人二人は狼狽えて何も聞けなくなってしまった。
さっき彼が意味深に放った、“学校にはもう行かない”という発言も、もしかしてそこから来ているのか。
婚約者がいながら、同級生と不実な関係になってしまった。
それが勤務先にばれるのは、確かにマズイことだろう。
急に静まり返ってしまった彼らのテーブルに、俊平の頼んだ日本酒が運ばれてきて、彼はコップに入ったそれを一息に飲み干す。
すると飲み慣れない強い酒に煽られたようにして、俊平はようやくすべての真実を話し出した。
「同窓会の夜……カヤと寝たとき、正直燃えたよ。だって初恋の相手だぞ? 手に入りそうで入らなかったカヤを、ようやく俺のモンにできたって、すげー満たされてさ」
もしもあの夜、桐人のことで夏耶を疑うことがなければ、琴子を捨てて夏耶を選んだかもしれない。
夏耶のことになれば、自分はそれくらい非情になれる。
とにかく狂おしいほどに、夏耶が欲しかった。
「けど……結局カヤはどうしたって俺のモノにはならなくて、今アイツは別の男に守られてて……俺、心の中なんかすげぇぐちゃぐちゃになって。そんな状態の時に、婚約者から幸せそうに“お色直しのドレス、どれがいいと思う?”なんて聞かれたって、苛立ちの材料にしかなんねぇだろ?」