恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
14.Overheat
桐人は、少し離れた場所で俊平に電話をする琴子を、ベッドに腰掛けながら黙って見つめていた。
ここ数日の桐人は彼女の家に泊まることが多く、今日も長い夜を彼女と過ごそうとしているところだった。
「……帰って来る、そうです」
通話を終わらせた琴子が、ぎしりとベッドを軋ませて桐人の隣に戻ってきた。
「ホント中途半端なヤツ……まぁでも、やっぱり琴子さんのことも特別なんだろうね」
皮肉っぽい笑みを浮かべて言った桐人に、琴子はうつむきがちに話す。
「……でも。俊平の“特別”は、不安定過ぎて……もう、信じたくない」
琴子は数センチ先にある桐人の手に触れて、自分からぎゅっと握りしめた。
彼もそれに応えるかのように、彼女の華奢な手をゆるく握る。
「……彼を弁護するつもりはこれっぽっちもないけど。不安定なのは、俺らも一緒じゃない?……だから俺だって、このところ毎晩ここに居るわけで」
「じゃあ……ここにいるのは、不本意なんですか?」
「うーん……難しいとこだな。でも、きみに救われてるのは本当」
「そんな……救われてるのは私の方です」
確かに、最初に桐人に助けを求めてきたのは琴子の方である。
少し前、俊平に“距離を置こう”と一方的に告げられて、訳も分からず混乱していた琴子。
その後、追い討ちをかけるかのように、彼の元教え子という十代の女子が、“俊平に抱かれた”などという衝撃的な事実を暴露しにこの家を訪れた。