恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
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「時間通りなら、そろそろ始まってる頃だな」
あるマンションの一室で、男が腕時計を見て嬉しそうに言った。
それを見ていた夏耶は、両手両足を縛られている状態にもかかわらず、反抗的な言葉を彼に投げつける。
「……先生は、必ずあなたの罪を暴きます」
彼女が睨んでいる相手は、暗い緑色の作業着を着ている、地味な風貌の男――そう、今回の事件の鍵を握っていると思われる、三河である。
ソファに脚を組んで座る彼は、床に座っている夏耶を見下ろしながら、皮肉っぽく言う。
「へー。あの弁護士先生、そんなにスゴイんだ?」
「……あなただって、それを知っているから、こんなことしているんでしょう? 真犯人が自分だって、暴露されるのが怖いから――――」
夏耶がまくしたてると、三河は苛立ちを露わにして荒々しい動作で立ち上がった。
反射的にびくりと震えながらも、彼に挑戦的な視線を向けることをやめない夏耶のことが、彼は気に食わないようだった。
「……今日までちゃんと死なないようにメシ食わして、二日にいっぺんシャワーだって許してるのに、ホント生意気だなアンタ」
夏耶はそれについては、反論できなかった。
悪になりきれないらしい三河は、毎日最低限の食事は夏耶に与えていた。
最初は毒でも盛られていたら困ると手を付けなかった夏耶だったが、お腹の中にいる子供のことを考えたら、いつまでも何も口にしないわけにはいかなかった。