恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
16.Sudden stop
検査を終えた夏耶が病室に戻ると、そこには見知らぬ女刑事がいた。
黒髪のワンレンロングヘアのよく似合う美人。
微笑ながら夏耶に会釈をした彼女は吉野麻衣子(よしのまいこ)。津田と同じ刑事課の刑事である。
麻衣子は警察手帳を見せてから、夏耶がベッドに戻るのを待って口を開く。
「ごめんなさいね、ゆっくり休みたいところ」
「いえ。捜査に協力できるなら、何でもお話します」
ベッドの上で上半身を起こした夏耶がそう言うと、麻衣子は優しく微笑む。
「ありがとう」
窓際の壁に立てかけてあったパイプ椅子を開いて、麻衣子がベッドの傍らに座る。
そして手帳を開くと、夏耶が口にする三河に関する情報を事細かにメモしていった。
「はー……かわいそうねぇ。父親が偉いばっかりに、一度の挫折でここまで屈折しちゃうなんて」
どこか他人事のように呟いた麻衣子に、夏耶は言う。
「でも……だからって、何の罪もない人を殺して、しかもその罪を他人になすりつけていいはずがありません」
「あら、検察官みたいなこと言うのね」
麻衣子が目を瞬かせ、意外そうに言った。
「先生がいつも言っています。依頼人を信じるのはもちろん大事なこと。だけど、公平な目を持つことも忘れちゃいけないって」
「先生……相良弁護士のことね?」
夏耶はコクンと頷き、俯いたままで思う。
(裁判……見たかったな。先生はどうやって窮地を切り抜けたんだろう。きっと、学ぶべきところもたくさんあっただろうし……)