恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
そんな夏耶を見て、麻衣子は冗談っぽく言った。
「すっごいイイ男なんでしょ? 一度お会いしたいのよね~」
その瞬間、夏耶の胸にちくんと針が刺さったような痛みが走った。
「まだ独身なんだっけ? 今度私とデートしてくれないかしら」
最初は気のせいかと気にしないようにしていた夏耶だが、麻衣子が桐人に興味を示す発言をするたびに、ますます胸の痛みは増した。
(私……なんでこんな……)
浮かない顔で、手元の白い布団を握りしめる夏耶。
麻衣子はそんな彼女の様子にすぐピンときて、クスクス笑いながら言う。
「沢野さん、冗談だから気にしないで? 私の本命は別にいるし」
「え? 別に、私は……!」
顔を上げると、麻衣子がにやにやと冷やかすような笑みでこちらを見ている。
「いいわよ隠さなくたって」
(隠してるつもりじゃないんですけど……!)
そんな態度をされるとどんどん恥ずかしくなってきて、けれど恥ずかしがる理由なんてないのに、と、夏耶は自分で自分が分からなかった。
とにかく頬が熱くて、それから麻衣子の本命が別にいると知って、波が引くように胸の痛みが去って行く。