恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「今、私がするべきことは、恋愛なんかじゃない。早く一人前の弁護士になって、この子と生活していくための土台を作らなきゃいけないんです」
(恋愛“なんか”か――)
くすぶらせていた恋心を、やっと本人に伝えようかと思っていたところに、その言葉。
夏耶のことは立派だと思うが、桐人の心にはひどく堪えた。
けれど、部下の前で取り乱すまいと、桐人はなんとかしていつもの軽薄な自分を取り戻そうと必死になった。
「……わかった。沢野のクチビルはもうちょっと我慢するわ」
結局、自分の想いも言えずに、冗談で誤魔化す自分が情けないと思いながらも、彼はそれ以外のやり方を知らないのだった。
「先生……」
「ゴメンね、長居しちゃって。いつ仕事復帰できそうかわかったら教えて」
「あの……」
何か言いたそうな夏耶の視線を振り切るように、桐人は腰を上げて病室を出て行こうとする。
夏耶はその背中を呼び止めようかどうか迷って、けれど結局はただ見送ることしかできなかった。
桐人が少し傷ついていたように見えたのは、きっと気のせいだ。
彼が私なんかのことで、そこまで思い悩むはずがない。夏耶はそう自分に信じ込ませた
*
一方桐人は、病院を出るなりスマホを耳に当てどこかに電話を掛けていた。
ビルに反射する夕陽に目を細めながら、呼び出し音を聞く。
『――Hello?』
「あ、もしもし丈二さん? 俺です、相良です」
『おー、珍しいなお前からかけてくるなんて。どうした?』
「……うん。ちょっと、日本に飽きちゃったかなーなんて」