恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「み、見えない……っ」
もともと小柄なうえ、今の身体の状態であまり人ごみの中に飛び込んで転倒でもしたらまずいと判断した夏耶は、後方でつま先立ちをしてみるが、たくさんの人の頭しか見えない。
自分の番号がなかったものは肩を落としてすぐ立ち去るものの、合格者は記念撮影をしたりしていて、なかなか掲示板の前から動いてくれない。
夏耶がもどかしく思いながら前に行けるチャンスを窺っていると、バッグの中から着信音がしていることに気付く。
人ごみから離れてスマホを確認すると、桐人からの電話だった。
「はい、沢野です」
『どうだった? 結果』
「それが……まだ見られてなくて」
『あー……混んでる、か』
夏耶が再び掲示板の方を振り向くと、少し人波が引いていて、スマホを耳に当てたままで彼女はそこに近付く。
お腹を庇いながらなんとか掲示板の前まで来ると、目を凝らして自分の受験番号を探した。
「あ……」
小さく声を上げた夏耶が見つめる先には、彼女の受験番号が間違いなく記してあった。
「先生……ありました」
どんなに勉強しても自信がなく、身体のことでも不安ばかりだったこれまでの自分がようやく救われた気がして、夏耶の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
『……よかった。おめでとう。まぁ俺は受かると思ってたけどね』
「ホントですか……? 先生、調子いいから……」
そう言いつつも、優しげな桐人の声にますます涙腺を刺激され、鼻を啜る夏耶。
そんな彼女に、彼は穏やかな調子でこう言う。