恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜





ほぼ同じ頃……俊平は砂浜に立ち、海岸線に沈んでいく夕陽を眺めていた。

海風にはためく彼の服は、白のタキシード。
しかし、その正装は何の役にも立たなかった。


「……いっそ、消えてなくなりてぇな」


波の音に紛れて力なく呟く俊平。

晴れの日であるはずだった今日、彼は最悪の体験をした。


***


――数時間前。

俊平はウエディングドレスに身を包んだ琴子と並んで、参列者に向かってきらきらした笑顔を向けていた。

彼らが自分たちの結婚式に選んだスタイルは、人前式。

琴子はバージンロードを父親と歩けないし、ゲストの数も彼女側は極端に少ない。

そういった理由から、自由な雰囲気の人前式で行われた二人の結婚式は、途中まで何の問題もなく進んでいた。

しかし、その時は突然に訪れた。


「――誓いの言葉」


二人声を揃えて、参列者に宣言したとき、琴子は笑顔を浮かべていた。

教会式と違って誓いの言葉に決まり文句などがないため、二人でああでもないこうでもないと悩んで決めた誓いの言葉。

それをこれから大勢の前で宣言するのが幸せなのだろうと俊平は思った。

しかし彼自身の気持ちは、ずっと中途半端なまま。

以前、琴子を突き放そうと決めたときも、実際にそれを行動には移せなかった。

それならせめて、前向きに結婚に向けての準備を――と彼が思い始めた頃、律子から連絡があった。


『夏耶が、どうしても一度アンタと会って話がしたいって。たぶん……子供のことだと思う』



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