恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(法律事務所……? 弁護士……? なんで、そんな人がウチに)
そうだとは知らない俊平は、桐人の名刺を受け取ったところで彼がここにいる理由などわかるはずもない。
コートも脱がずに立ち尽くす俊平を見かねて、琴子が立ち上がった。
「俊平も……座って? 大事な話があるの」
凛とした声で言った琴子に、俊平は違和感を覚えた。
自分以外に頼る人のいない彼女はいつもどこか儚く自信なさげに見えるのに、今日の彼女にはそれがない。
訳も分からず琴子の隣の椅子を引いてそこに腰かけると、俊平の向かい側に腰を下ろした桐人は、琴子を一度見てから、俊平に向かって口を開く。
「……突然のことで驚かれるかと思いますが……彼女は、あなたとの婚約破棄を望んでいます」
「え……?」
(婚約、破棄……?)
俊平にとっては、寝耳に水もいいところだった。
先程、夏耶のことを思い出して心が揺れたのは否定しない。けれど、琴子と別れようなんて思ったことは一度もないし、もう俊平の両親には挨拶も済ませているのだ。
「……どういうことだよ」
冗談だろ、という風に鼻で笑いながら言った俊平に対して、琴子は申し訳なさそうに俯く。
けれど何も説明する気はなさそうで、二人の間に険悪な空気が流れ始めたのを見かねたように、桐人が口を開く。