恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
桐人は空港に着いてから、ターミナル内のカフェで少し時間を潰した後、国際線の出発ロビーのベンチで夏耶に電話した。
そして自分の言いたいことだけを言うと、一方的に通話を切ろうとした。
そのとき夏耶はまだ何か言いたげで、その戸惑ったような声を聴くと桐人の胸は痛んだ。
でも、これが自分の選んだ道なのだ。
ひとりで頑張ろうとしている彼女の妨げにならないためには、遠く離れるほかないと思ったから。
桐人はスマホをポケットにしまうと、ベンチの背もたれに深く背中を預ける。
(……臆病者は臆病者らしく、尻尾巻いて逃げるのが似合うだろ)
桐人はぼんやりとそんなことを思いながら、飛行機の時間が近づくのを待っていた。
何も考えたくないのに、長い間一緒に過ごした夏耶との記憶ばかりが繰り返し脳内で再生される。
それを掻き消したくて、がしがしと強めに頭を掻いた時、ふわりと白いものが目の前で揺れた。
顔を上げると、空港にはひどく不似合いな格好をした知り合いの女性がいる。
彼女はすぐそばの椅子に座る桐人には気づいておらず、キョロキョロと焦った様子で辺りを見回していた。
そのたびに、彼女が纏った白いドレスの裾が、膨らんで揺れる。
桐人は思わず腰を上げ、怪訝な顔で彼女に声を掛けた。
「……琴子さん?」