恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(……ここにもいない。あと、一か所……)
重く大きなお腹を抱えての人探しは思っていたより重労働で、夏耶の額に汗が滲んできた。
お腹の張りも強くなっていて、少し休憩しようかと、ベンチの側で息をついた時だった。
座ろうとした場所から少し離れた、広い窓から外を見渡せる場所に、桐人によく似た体格のシルエットが佇むのを夏耶は見つけた。
その瞬間、きゅ、と胸が締め付けられて、すぐに彼の方へ近づこうとした夏耶。
けれど、自分が声を掛ける前に、他の女性が彼の元へ駆け寄った。
女性は彼の腕に自分の腕を絡ませ、二人はそのまま窓から離れるように歩き出す。
そのとき振り向いた男の顔は、思った通り桐人だった
「あの人は……」
そして、彼の隣にいる女性のことも、夏耶は一度見たことがあった。
依頼人なのか、桐人の彼女なのか……正体不明の美人。
彼女が事務所を訪ねて来たとき、桐人は自分を邪魔者のように扱っていたのを思い出す。
(じゃあ、やっぱり、あの人は先生の彼女……?)
声を掛けることも、追いかけることもできずに呆然と二人を見送っていた夏耶。
しかししばらくすると、突然夏耶の腹部に鋭い痛みが走った。
「いっ……」
お腹を両手で押さえ、倒れるようにその場にうずくまってしまう夏耶。
額に脂汗を滲ませて苦しむ彼女の周りに、何事かと人が集まってくる。
(いかないで……先生……)
しばらく夏耶はそんな思いでいっぱいだったが、段々と思考は痛みだけに支配されて、そのうちに何も考えられなくなった。