恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
18.Way to hope
マンハッタンの中央に位置する、セントラルパーク。
広大な緑の芝生、木々の向こうには巨大な摩天楼がいくつもそびえている。
そんな都会の公園の中を、琴子は毎週末ジョギングしに訪れる。
はじめは体力づくりのためだったが、走ることに慣れると、移り変わる季節や思い思いに公園での時間を過ごすニューヨーカーを眺める時間は楽しいものになった。
耳に差し込んだピンク色のイヤフォンからは、職場の同僚から勧められた古いヒップホップが流れる。
それはまったく彼女の趣味ではなかったが、誰かの趣味を押し付けられることは、今まであまり人と関わらない人生を送ってきた彼女にとって、新鮮でうれしかった。
「――あ、いたいた。琴子ちゃん!」
ふいに、離れた場所から誰かが彼女を呼んで、大きく手を振った。
音楽を聞いている琴子の耳にその声は入らなかったが、あまりに鮮やかなピンク色のシャツとパンツが視界に入り、その姿に気が付いた。
噴水の側に立っている、イタリア人のような派手服装をした中年の日本人。
彼は琴子の上司、笠原丈二である。
琴子はイヤフォンを外し、ポニーテールにしている髪を揺らして彼の元へ近づいて行った。
「おはよう、丈二さん。どうしたの?」
「どうしたの? じゃないよ。きみが泣いてないか心配で来たんだ」
肩をすくめて話す彼の様子がおかしくて、琴子はクスりと笑う。