恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「大丈夫ですよ。彼には五年前に、とっくにフラれてるんですから」
「……ったくあのバカ。ウェディングドレス着たまま必死に追いかけてきたこんな美人の花嫁を振るとは……」
笠原の言葉に、琴子は当時のことを思い出す。
空港で、まっすぐに自分を見つめた桐人が、放った言葉。
『君がそうしたいなら、ついて来るのは構わない。でも、俺が君を好きになることはない。……好きな人がいるんだ。大人になって、忘れかけてた本気の恋愛を、彼女が思い出させてくれた。だから……たとえ結ばれなくても、俺はずっと彼女の幸せを願ってる』
そこまでハッキリとフラれたにも関わらず、琴子はどこか晴れやかな気持ちだった。
そして、桐人のことをやはり素敵な男性だと再確認した。
恋人になれないことは残念だけれど、彼に出会えてよかったと思える、爽やかな失恋だった。
だからこそ、琴子は最後にこんなワガママを彼に伝えた。
『こんな格好で追いかけて来て、みんなの注目を集めてしまったので、出国するまで少し恋人の振りをしてくれませんか? 人生は、ドラマみたいにうまくいかないんだって、色んな人に憐れまれるのはちょっと切ないので』
桐人は苦笑しながらも「それくらいなら」と同意し、二人は恋人のように腕を組んでいたのだった。
「……いいんです。私、あの時フラれたから、今こうして、海外でひとりで生活できてるんだと思ってます」
にっこり微笑んで言った琴子の言葉に嘘はなかった。
誰にも寄りかからず、ひとりでも生きる自信。
この五年間でそれを身につけさせてくれたのは、他でもない、自分を振った桐人だったから。
「琴子ちゃん」
ぽん、と彼女の肩に温かい手が乗せられる。