恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(……目つきの悪いガキだな)
そう思いつつも、俊平は無視して子供のそばを通り過ぎ、スーパーの方向へ歩く。
すると、小さな足音が後ろから追いかけてきて、走って俊平を追い抜かすと彼の前に立ちはだかった。
「……おまえ、しゅんぺーっていうの?」
「は?」
あどけない声だが、生意気な口調で言われて、俊平は思わずムッとした。
男の子の親の姿を探すが近くにそれらしい人影はなく、相手をするしかないのかと、ため息をつく。
「大人の人に“お前”とか言っちゃダメだろ? ちなみに、なんで俺の名前分かった?」
「うるせー。おまえなんかおまえだ。なまえは、さっきそうよばれてたから」
どうやら俊平の母親が呼び止めたときのことを言っているらしい。
それにしても、どうやら自分に敵意があるようだ。その理由が分からなくて、俊平は男の子の目線に仕方なくしゃがむ。
「……確かに俺は俊平だけど。なんか俺に用なの?」
極力優しく聞いたつもりだったが、男の子はすかさず俊平の背後に回ると、思いきり彼の尻を蹴った。
「痛って……! 何すんだよこのくそガキ!」
「おまえがしゅんぺーなら、おれがやっつけるんだ! お母さんのために」
「お母さん?」
しばらく尻の痛みに顔を歪めていた俊平だったが、何気なく男の子を見つめているうちに、胸にある予感を抱いてはっとした。
(コイツ……まさか……)
俊平の心臓の鼓動が、重い音を立てながら速まる。
――目を細めて見つめた先の少年に、自分の面影を探しながら。