恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
桐人が部屋を出て行き、玄関の扉が閉まる音が聞こえると、俊平は俯いたままの琴子の肩を掴んで、自分の方を向かせた。
「琴子」
「……何」
「何って……俺に言わなきゃならないことがあるだろう。何だよ、あの弁護士。まさか、アイツとできてるんじゃないだろうな?」
心にもないことを言っている自覚は俊平にもあった。
けれど、そういう言葉をぶつけられても仕方のないことを琴子はしている。心の内でそんな言い訳をしながら、彼女の返事を待つ。
「……そうだって言ったら? 慰謝料請求してみる?」
顔を上げた琴子は、能面のような顔をしている。
それは俊平が今までに見たことのない表情で、彼の苛立ちを増幅させた。
「なんだよそれ……」
「……なんて、嘘よ。でも、もしも俊平が別れに応じてくれなかったら、そういうことにしてもいいって相良さんは言ってくれた」
「そんなこと……」
(……許さない。俺から離れるなんて)
俊平の脳裏に、無意識にそんな思考がよぎって、彼自身がはっとした。
琴子に対して、知らず知らずのうちに支配欲が芽生えている――そう気づいて、自分が少し怖くなる。
それでも、俊平は止まれなかった。
「……来いよ」
彼はガタッと椅子から立ち、琴子の腕を力任せに引っ張って、寝室へ連れて行った。
投げ捨てるように琴子の身体をベッドに放り、シュル、と首に巻き付いたネクタイを外すと、彼女の手首を拘束する。