恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「俺がフッた子。彼女ちょっと、恋人に依存しやすいところがあってさ、海外でそんな自分を変えたいって、今も向こうで生活してるよ」
「そう、なんですか……じゃあ、どうして腕を組んでたんですか?」
「あらら、そんなとこまで見られてた? まぁあれは、彼女の強がりに付き合ったっていう感じかな。大丈夫、深い意味はないよ、神に誓って」
夏耶は少し硬ばらせていた表情を緩ませ、静かに頷いた。
彼らの仲睦まじげな光景を目にしたその当時は疑いの気持ちもあった。
けれど時間が経つにつれ、桐人が仕事を放りだして女性と海外に――なんてあり得ないだろうと、思い直すようになっていたから、彼の言うことを素直に信じられたのだ。
「そういえば、今日は真人、誰かに見てもらってるの?」
「はい、実家に預けてあります」
「そっか……じゃあ、気になって早く帰りたいよな」
壁の時計を見ると、もうすぐ七時になろうかというところ。
桐人の気遣いに、夏耶は少しだけ間を空けて答えた。
「……両親にけっこう懐いているので、そこまで心配はしてないです。もちろん、気にはなりますけど……でも」
「でも?」
「もう少しだけ。……先生と、話していたい」
切ない声で言われて、桐人の心臓が大きく揺れた。
今すぐ夏耶の唇を奪って、ソファの上に倒して、五年ぶりの思いをぶちまけたい。
そんな衝動に駆られる……でも。