恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「俺は、もうどこにも行かないから……焦らず、ゆっくり、前に進もう? 真人のこともあるし、俺たちがこれからどんな形で恋愛していったらいいか、じっくり二人で考えながら」
「先生……」
「日本に帰るって決めたときから、沢野とその子供のこと、丸ごと受け止める覚悟はできてるんだ。でも、いくら俺に覚悟ができてたって、沢野と真人には今まで二人で築いてきたものがあるだろうし、そこにいきなり入り込めるなんてことは、思ってないから」
思いやりに溢れた桐人の言葉に、夏耶は思わず瞳を潤ませた。
彼がそこまでちゃんと考えてくれていると思わなかった。
母親になった自分の気持ち、それに、彼は実際には一度も目にしたことがない子どもの気持ちまで汲んでくれるなんて。
「沢野……その目はやめて。ゆっくり――って、言い聞かせてる理性が飛ぶ」
「だって……先生が、優しいから……」
涙声で語った夏耶の肩を、桐人は思わずぐい、と自分の方に引き寄せた。
胸の中に倒れ込んできた夏耶のぬくもりに胸をときめかせながら、静かに言葉を紡ぐ。
「いつか、家族になれたら。それが一番の理想ではあるけど、その実現のために無理して沢野や真人を疲れさせたり、傷つけたりするのは俺としても不本意だしね。……でも、これだけは覚えておいて」
桐人は少しだけ身体を離し、夏耶が上目遣いに自分を見つめたその瞬間に、優しく唇を奪った。
彼女の耳の脇に手を差し入れて、髪を梳きながら、何度もキスの角度を変える。
唇を離して、お互いの熱い吐息が重なると、桐人はたまらなくなってもう一度夏耶に口づける。
それから、至近距離で視線を絡ませると、彼女に伝えた。