恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜

「……ええ。わかりました。でも、状況が変わったり、何かまた困ったことになったら、必ず教えてください。……はい。では」


静かに受話器を戻した桐人は、渋い表情をしていた。

そして何故だか今日は不在の夏耶がいつも使っているデスクをぼんやりと見つめているので、気になった豪太は声を掛ける。


「……相良さん、どうしたんですか？」

「え？　……ああ、ちょっと、行く末の心配なカップルがいてさ」


曖昧にそう言って、デスクの上に置いた煙草の箱に手を伸ばす桐人。

最近彼の吸う煙草の本数は、確実に増えていた。それは夏耶が例の同窓会に出かける日が近づいているからだと、桐人は自分でも気がついている。


「カップル……？　それに、沢野さんも関係あるんですか？」

「……お、鋭いねぇ。そう、ウチの可愛い事務員には幸せになって欲しいんだけどさ。どうも難しそうで」

「なら相良さんが助ければいいじゃないですか」

「ん？　んー……まあね」


これ以上の追求から逃れるように、ギっと音を立てて椅子から立ち上がった桐人は、煙草をふかしながら窓辺に立つ。

そして思い出すのは、さっきの電話の相手との会話――。


『心配して下さってありがとうございます。でも、もう一度、彼とやり直してみるって決めたんです』


（俺が彼らの家に行ったのは、逆効果だったか……）


明らかに敵意剥き出しで自分をにらんできた、琴子の婚約者、俊平の姿を思い出す。

彼女は“義務感で”と言っていたが、それ以上の感情も彼の中にはあるように桐人には思えた。

琴子もそれに気が付いて、だから彼と離れられなくなった。そう考えるのが自然だろう。