恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(でも……そうしたら、沢野の立場は……)
琴子に相談を持ちかけられたあの日、彼女と俊平との間が上手く行っているわけではないと知ったからこそ、桐人は夏耶をけしかけたのだ。
夏耶に対して、不確かながら特別な想いを抱いている自分を感じながら。
(彼女も俺も……たどり着くのは結局行き止まり……か)
指に挟んだ煙草が短くなると、桐人はそれを灰皿に押し付けて再びデスクに戻る。
けれど、頭の中がもやもやとして、仕事に取り掛かる気になれない。
「あー……土曜日の職場はむさくるしいなー」
そう言いながら子どものようにくるくると椅子を回転させる桐人に、豪太は呆れてため息を洩らす。
「……すいませんね。俺どっか別の場所で仕事しましょうか」
「それより美女でも連れてきてよ。美女にコーヒー入れてもらったら仕事捗る気がする」
「そんなことしたら、相良さん美女連れて消えるでしょ。コーヒーなら、俺が入れます」
「あーあ……お前はつまんない男だねぇ」
法廷で見る桐人はヒーローと言っても過言でもないくらいに立派に輝いて見えるのに、事務所ではこうしてたいがいふざけている。
そんな姿に最初は豪太も驚いたものだが、今では慣れたものだ。
相変わらずぶつぶつ文句を言う桐人を無視して、豪太はコーヒーメーカーの置いてある小さなキッチンに向かう。
しばらくすると桐人のデスクで電話が鳴り、けれど完全にヤル気ゼロになってしまったらしい彼は電話を取る気がなさそうなので、豪太はコーヒーを入れる作業を中断し、仕方なく受話器を持ち上げた。
「はい、相良法律事務所――」
言いかけると同時に、耳に飛び込んできたのは早口の英語だった。
少し焦ったものの、なんとか相手の情報を聞きとると、通話口を手で押さえながら桐人に伝える。
「相良さん、国際電話です。マンハッタンの、ジョージさんって方から……」