恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
6.U-turn
悩みに悩んで買った、ピンクベージュのドレープワンピース。
そして、背の低い自分に少しでも存在感を持たせたくて、貯金をはたいてまで買った、ルブタンの10センチヒール。
(来るかどうかもわからないのに……ばかみたい)
履き慣れない靴で歩道の石畳にときどきつまずきそうになる自分を滑稽に思いながら、夏耶は同窓会会場である湾岸のホテルに向かっていた。
まだ冬の名残がある三月上旬の午後六時前、空はすでに夜の色。その深い紺色が彼女の自信のなさに拍車をかける。
それでも彼女の足は会場に向かって歩きたがっていて、スマホで場所を確認しながら目的地に向かっていた、その途中。
「……夏耶じゃない?」
懐かしい声にそう呼ばれて、夏耶は声のした方を振り向く。
暗闇から笑顔で近づいてきた女性は、夏耶の同級生、高校最後の二年間を同じクラスで過ごした村井律子(むらいりつこ)だった。
「りっちゃん!」
そう言うなり夏耶はパッと表情を明るくし、ヒールを鳴らして彼女の方へ駆け寄る。
夏耶と違ってすらりと背が高く、昔から大人びた美人系の顔立ちだった律子。
対照的な容姿の二人だが仲は良く、卒業式には離れる寂しさでわんわん泣きながら抱き合った思い出もある。
今では互いの予定が合わずになかなか会えなくてたまにLINEのやりとりをしているくらいだが、こうして顔を合わせると、一瞬で高校の時の親密さが戻ってきた。
(……そうだ。たとえしゅんぺーがいなくたって、懐かしい友達に会えるんだもん。きっと同窓会は楽しめる)