恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
(結婚……そう、だよね。しゅんぺーには、婚約者が……)
夏耶がその事実を知ったのも、律子からの情報だった。
ちょうど大学を卒業して桐人の事務所に勤め始めた頃、何か別の話題でLINEをしていた律子が、急に言い出したのだ。
【そーだそーだ。俊平、婚約してるんだって! こないだ彼女といるところにばったり会ったの!】
そのメッセージを夏耶はすぐ読んでいたのに、なかなか返事ができなかった。
スマホを見つめたまましばらく呆然とし、やっと当たり障りのない文章を返せたのは、数時間後。
【そうなんだ。どんな人だった?】
【色が白くて、可憐って言葉が似合うような美人だったよー。諏訪琴子さんとか言ってた】
【なんか名前も綺麗】
【ね! 俊平もなにげにカッコよくなってたから、超お似合いだった】
思わず夏耶の頭の中に、オトナになった俊平の姿が浮かんだ。
きっと、素敵な男性になっていることだろう。……けれど。彼の隣には、美人の婚約者。
切なく軋む胸の内を律子に明かすわけにはいかず、夏耶はスタンプの中から笑顔のものを選ぶと、ぽん、と画面を叩いた。
スマホの明るさが浮かび上がらせた彼女の表情は、スタンプとは真逆のもの。
感情を押し殺して強張った頬には、涙が伝っていた。