恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜





会場となるホテルの宴会場の前のロビーには、すでに多くの同級生たちが集まっていた。

その中にはもちろん二人の顔見知りもいたが、別の同級生と盛り上がっている様子で、なかなか声を掛けられない。


「……あ、あれ、千田(ちだ)先生だ。夏耶ごめん、ちょっと挨拶してくるね」


自分の所属していた部活動の顧問の姿を見つけた律子は、そう言って夏耶のもとを離れて行く。

夏耶にとって、千田はただの隣のクラスの担任。

ついて行っても気まずいだけかなと思った彼女はキョロキョロと辺りを見渡して、少し離れた場所にあるソファに腰を下ろすことにした。


コツ、と靴のかかとを鳴らして人の群れから離れる夏耶。

その姿に気付いて、彼女の背後にゆっくり近づいてくる男の影があった。



「――――カヤ?」



騒がしいはずのロビーで、夏耶の耳は器用に他の音を選り分け、その声だけを拾い上げた。

どくん、と大きく心臓が波打ち、手のひらには汗が滲んだ。


夏耶は立ち止まって、大きく深呼吸をする。

それからやっと、茶色のボブを揺らして体の向きを変えた。


視線の先には、ヒールを履いていても見上げるほどの長身。

足元から細身のスーツ姿を上にたどっていくと、昔より細く尖った顎や、憂いを感じさせる目元に視線を奪われる。


「……久しぶり」


――あの頃と同じようで少し違う、大人の俊平。

夏耶はなかなか声を出すことができず、瞳だけを切なく濡らした。



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