恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……今日、休み?」
「うん。基本、私は土日休みなんだ。先生方は土曜も半日出てるけど……」
「そっか。俺も土日祝は休みのはずなんだけど、部活の顧問やってると試合だの遠征だので、なかなか」
「顧問って……バスケ部?」
「そ。……もうかなり下手だけどな。体力も落ちてるし」
夏耶と俊平は、少し距離を開けたままソファに座っていた。
とりとめのない会話にはすぐに沈黙が訪れ、気まずい空気が二人の間に流れる。
夏耶がちら、と膝の上で軽く握られた俊平の左手薬指を確認すると、そこには何も嵌っていなくて、それだけのことでドキドキする自分をなんとかなだめていた。
(まだしてない、ってだけで、これからするんだってば……)
でも、生身の俊平に会ってみると、これからこの人が他の女性と結婚してしまうという事実に、現実味が感じられない。
(……今日なら、頑張れる気がする)
夏耶はスカートの裾をぎゅっとつかんで、おそるおそる俊平の方を向いた。
「あのさ、しゅんぺー……今日、このあとって――」
「ちょっとー! そこの二人!」
夏耶の震える声は、近づいてくる律子の声と、棘のパンプスがカツカツいう音にかき消されてしまった。
反射的にパッと立ち上がると、呆れ顔の律子が手のひらをこちらに向けてくる。
「会費、まだ払ってないのアンタたちだけだってさ」