恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「――あ、ゴメン! すぐ出す!」
パチン、とクラッチバッグを開けて財布を探す夏耶に対し、俊平は落ち着いた様子で律子に歩み寄って片手を上げた。
「村井。お前全然変わってないな」
「失礼ねー。これでもAからBに成長しました!」
「……ドコの話してんだよ。つーかそういうの平気で言っちゃう辺り、オバサンぽい」
「今の聞いた!? 夏耶! 自分が婚約者さんとうまくいってるからってさー」
(りっちゃん……さりげなく聞きづらいことを……)
夏耶は愛想笑いを浮かべながら、律子の手に五千円札を乗せる。
けれど、彼女の頭の中は“俊平はなんて答えるだろう”ということばかり、ぐるぐる回っていた。
「カヤ」
「……え?」
現実から遠ざかっていた夏耶が我に返ると、俊平が苦笑しながら彼女を見ている。
「会費、六千円だぞ」
「え! あ、そうだっけ。な、なんで間違えたんだろ……!」
閉じたクラッチバッグに慌てて夏耶が手を掛けると、俊平の手がそこにふわりと重なって、夏耶の時間が止まった。
「……いいよ。俺が出す」
(え……? な、なんで……)