恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「――あ、ゴメン! すぐ出す!」


パチン、とクラッチバッグを開けて財布を探す夏耶に対し、俊平は落ち着いた様子で律子に歩み寄って片手を上げた。


「村井。お前全然変わってないな」

「失礼ねー。これでもAからBに成長しました!」

「……ドコの話してんだよ。つーかそういうの平気で言っちゃう辺り、オバサンぽい」

「今の聞いた!? 夏耶! 自分が婚約者さんとうまくいってるからってさー」


(りっちゃん……さりげなく聞きづらいことを……)


夏耶は愛想笑いを浮かべながら、律子の手に五千円札を乗せる。

けれど、彼女の頭の中は“俊平はなんて答えるだろう”ということばかり、ぐるぐる回っていた。


「カヤ」

「……え?」


現実から遠ざかっていた夏耶が我に返ると、俊平が苦笑しながら彼女を見ている。


「会費、六千円だぞ」

「え! あ、そうだっけ。な、なんで間違えたんだろ……!」


閉じたクラッチバッグに慌てて夏耶が手を掛けると、俊平の手がそこにふわりと重なって、夏耶の時間が止まった。


「……いいよ。俺が出す」


(え……? な、なんで……)



< 32 / 191 >

この作品をシェア

pagetop