恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
夏耶が呆然としている間に、俊平は自分の分の会費と、それから夏耶の分の足りない千円を律子に渡す。
「まいどありー」と調子よく言った律子が受付の方に去ってしまうと、俊平は未だ固まったままの夏耶に言った。
「……これは貸しにしとく」
なんでもないただの冗談にも聞こえるし、意味深にも聞こえるその言葉を、夏耶はどう受け取ったらいいのかわからず、ピンクの長財布を開く。
「い、いいって。次、いつ会えるのかわからないんだし。……それにほら、仮にも弁護士目指してる人間が、幼なじみとはいえ他人に借金するなんてカッコ悪くない?」
「……わかんないの? いつ会えるか」
「え……?」
どうやら俊平は真剣に聞いているようだった。
それは、“また会ってもいい”ということの裏返しだろうか。夏耶は期待してはいけないと思う反面、胸の高鳴りが増すばかりだった。
「だって……しゅんぺーには……」
(婚約者さんがいるじゃん……)
結局、一番大切なところは、心の中でしか語りかけることができない夏耶。
このまま自分が口に出さず、俊平の方からも話されることがなければ、その存在に目をつぶっていられる――。
そんなことを思う自分はずるい女だと夏耶は思ったが、手段を選んでいられないほどに、彼女の俊平への想いは走り出してしまっていた。
「……俺には、何?」
「なんでも、ない……」
会費の徴収も終え、同級生たちは続々と宴会場の扉に吸い込まれていく。
やがて広いロビーに二人きりになってしまうと、夏耶は意を決して俊平の手を取る。
その温度は緊張で熱くなった夏耶の手と同じくらいだった。
(心の温度もそうであればいいのにーー)
彼女はそう願いながら、勇気を振り絞って言った。
「……しゅんぺー、私ね。
“あの日のやり直し”がしたいーー」