恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
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十八の夏耶は無知な少女だった。
勉強はできたし本を読むことも好きだったのだが、恋愛小説――中でも特に、肉体関係を含めた男女の恋愛が描いてあるようなものは苦手で、自然とそういうことにも疎かった。
彼女が好きなのはミステリー小説で、筋の通った物語をじっくりと読んで、ラストを読まなくても犯人がわかったときの爽快感がたまらなかった。
それに比べて恋愛小説ときたら、一方的に悪い犯人など出てこないし、事件を順序立てて整理してくれる探偵もいないし、ところどころで重要なヒントをくれる刑事もいない。
そしてラストは、ハッピーエンドならまだいいものの、なんだかフワッとしてハッキリしない終わり方であったり、中には後味の悪すぎる結末のものもある。
たまに気が向いて読むことはあっても、進んで何冊も読みたいと思えないのが恋愛小説。
夏耶にとって、それは現実の恋愛にも置き換えられることだった。
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「――ゴメンナサイ、私、付き合うとかそういうのは……」
夏休み明けの浮ついた空気も落ち着いてきた、高校三年二学期の秋。
穏やかな風が窓のカーテンを揺らす放課後の教室で、夏耶はクラスメイトからの告白を断っていた。
「そっか……沢野さんってやっぱ、俊平と付き合ってんの?」
「え?」
「ほら、幼なじみだからって、よく一緒に帰ったりしてるしさ」