恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


幼稚園から一緒、おまけに家も近くである俊平との関係をこんな風に言われるのは、初めてのことではなかった。

俊平のことは確かに、他の男子とは違う友達以上の関係だと思う。

話していると楽しいし、隣にいると安心する。

けれど、彼との間に、恋愛小説に登場する類のあの得体のしれない切ない気持ちは存在しないし、これからさせたくもない。

むしろ、すぐに傷ついたり壊れたりする恋愛関係より、長い時間を掛けて培った自分たちの信頼関係はもっと強固なもの。

そう信じていた夏耶は、男子からの質問にいつも笑顔でこう答えていた。


「……ううん、しゅんぺーとはそういうんじゃないよ」


それを聞いて、質問を投げかけた方が納得いかない表情を浮かべるのはいつものこと。
なぜなら、端から見て夏耶と俊平は、本当に仲が良かったから。

今回のクラスメイトも、夏耶が自分を傷つけまいとしてそう言ったのだろうと勝手に推測し、俊平にちょっとした嫉妬を覚えるのだった。


告白を断った夏耶は、いつものように体育館に向かって、開け放たれた扉からバスケットボール部の練習風景を眺めた。


(シュート練習をしているときの俊平は本当にカッコイイ)


昔は同じぐらいの身長だった彼がぐんぐん自分を追い抜かして、素敵な男の子に成長したというのは、夏耶も認めていた。

そして、そんな彼と一番仲がいいのは自分。

たとえ恋愛関係でなくても、そのことに優越感を覚えるのは自然なことだと夏耶は思っていた。

たとえば、当時から美人であった律子の一番の親友が自分であるように。



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