恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「――なんだよ、また来たのか」


しばらくすると、額や首筋に浮かんだ汗を大きなスポーツタオルで拭いながら、俊平が近づいてきた。


「うん。一緒に帰ろうと思って」

「……まだ終わらないぞ?」

「いいよ。見てるの好きだから」

「……そ。じゃーこれ預かってて」


夏耶の放つ無邪気な“好き”が、俊平にとってどれだけ破壊力のある凶器になるのかを、彼女は知らない。

ふわりと首に掛けられたタオルからは俊平の匂いがする。

それが、高校生の俊平ができる精一杯のマーキングだということも。






「――今日さ、井上くんに告られた」

「井上?」

「それで、またしゅんぺーと付き合ってるのかーって聞かれた」

「……カヤ、なんつったの」

「え? 私たちはそういうんじゃないよって」


学校帰りに寄った、俊平の部屋。

小さな折り畳み式のテーブルをはさんで数学の課題に取り組んでいたときに、夏耶が突然切り出した話に、俊平は動揺していた。


(……同じクラスになってから、これで何度目だよ)


俊平の握るシャーペンの芯の先がびき、と折れ、集中力を欠いた彼は背後にあるベッドにもたれかかり、深いため息をついた。
そして、ちらりと夏耶の方を見やる



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