恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「――なんだよ、また来たのか」
しばらくすると、額や首筋に浮かんだ汗を大きなスポーツタオルで拭いながら、俊平が近づいてきた。
「うん。一緒に帰ろうと思って」
「……まだ終わらないぞ?」
「いいよ。見てるの好きだから」
「……そ。じゃーこれ預かってて」
夏耶の放つ無邪気な“好き”が、俊平にとってどれだけ破壊力のある凶器になるのかを、彼女は知らない。
ふわりと首に掛けられたタオルからは俊平の匂いがする。
それが、高校生の俊平ができる精一杯のマーキングだということも。
*
「――今日さ、井上くんに告られた」
「井上?」
「それで、またしゅんぺーと付き合ってるのかーって聞かれた」
「……カヤ、なんつったの」
「え? 私たちはそういうんじゃないよって」
学校帰りに寄った、俊平の部屋。
小さな折り畳み式のテーブルをはさんで数学の課題に取り組んでいたときに、夏耶が突然切り出した話に、俊平は動揺していた。
(……同じクラスになってから、これで何度目だよ)
俊平の握るシャーペンの芯の先がびき、と折れ、集中力を欠いた彼は背後にあるベッドにもたれかかり、深いため息をついた。
そして、ちらりと夏耶の方を見やる