恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


カリカリとシャーペンを動かし続けている彼女の右手。その手首には、リストバンドが巻かれている。

俊平があげたものだ。


『誕生日だから何かちょーだい?』


夏耶の誕生日は六月。

しとしと雨が降る中わざわざ自分の部屋を訪れてきて、そうねだられたら、何もあげないわけにはいかない。

けれど、女子が喜びそうなものなんて俊平の部屋にはそれくらいしかなかった。

照れくささから、ぶっきらぼうにリストバンドを夏耶の方に投げつけた俊平だったが、夏耶の方は意外にも嬉しそうで、それから毎日腕に巻いている姿を見るのは、悪い気がしなかった。


「……しゅんぺー、課題ちゃんとやりなよ」

「んー? ああ……ちょっと、休憩」


そう言いながら視線を下に移動させると、床にあひる座りをした夏耶の白い太腿とふくらはぎがスカートとハイソックスの間で柔らかく潰れている。

彼女が部屋に来て、無防備すぎる体勢でベッドに寝転んだ瞬間には、ときどきスカートの中身まで見えてしまうことまである。

その度に目を逸らす俊平だったが、そろそろ夏耶にも女としての自覚というものを持ってほしいと思っていた。

そして、自分を男として、恋愛対象としてその目に映してほしい。

やったやらないで盛り上がる友達に囲まれながら、自分はかなり我慢した方だぞと、彼は声に出さずに夏耶に主張する。


(でも……兄妹みたいな関係で我慢していられるのも、そろそろ限界だっつーの……)


彼は何かに突き動かされるように身を起こすと、テーブルの上の夏耶の手を自分の手で包み込んだ。



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