恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……しゅんぺー? 邪魔しないでよ、私もうちょっとで終わるんだか、ら……」
いつもと違う俊平の様子に気づいた夏耶は、じりじりと近づいてくる彼の顔、その真剣すぎる瞳に違和感を覚えて、床の上を少し後ずさる。
「ど、したの……?」
「……どしたの、じゃねーよ。こんなに近くにいて、気づいてないとは言わせない」
「気づいてないって、何に……きゃっ!」
迫りくる俊平から逃れようとすると、それを封じるように上半身を押され、ドスン、と床に背中から落ちた夏耶。
俊平は彼女に覆い被さると、驚きの感情しか見てとれない夏耶の表情に、目を細めて舌打ちをした。
「しゅん、ぺー……?」
「マジでわかんないのかよ」
「だから、何の話……!?」
「お前さ。……俺のことどう思ってる?」
いつもより迫力のある俊平にそう聞かれて、夏耶は押し倒されたまま必死で頭を回転させる。
どうしてだかわからないけれど、今の俊平はとてつもなく機嫌が悪い。
なんとなく、彼の神経を逆撫でしてはいけない気がする。
彼との長年の付き合いからそう判断した夏耶は、小さな桜色の唇を動かして、こう呟く。
「どうって……すき、だよ?」
でも、そんなこと今さら確認することなのだろうか。
俊平のことは昔から好きだ。それを、俊平だってわかっていると思っていたのに。
そんなことを思う夏耶は、自分の口から発した“好き”の意味が、自分と彼との間で大きく異なるだなんてことに、気づきもしなかった。