恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
その瞬間、ゾクゾクとしたものが、俊平の背中を駆け抜けた。
離れていた間、今日まで夏耶は自分以外の誰にも身体を触らせていない――。
その事実は、彼の優越感を心地よくつついて刺激した。
「……俺のために、取っておいたのか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど……他の人とこうなりそうになっても、しゅんぺーの顔が浮かんで、結局、できなくて……」
語尾が掠れて小さくなる夏耶の照れた様子に、俊平は満足げに口角を上げる。
「ふうん……じゃ、俺の妄想で抜いたりしたわけ?」
「……!? ばか! してないよ、そんなこと!」
俊平から目を逸らしてそう言った夏耶だったが、その言葉は嘘だった。
彼女は眠れない夜、俊平の顔を思い浮かべてパジャマに手を忍ばせた経験が何度かあった。
しかし、達した後に訪れるむなしさや、俊平の知らないところで勝手に彼を性の対象にしていることに罪悪感を覚えてしまうせいで、最後まで到達することはごく稀だったが。
「……俺はしたよ。夏耶で、何度も」
急に真剣な声色になり、まっすぐ夏耶を見つめて言いきった彼に、夏耶の心臓が暴れ出す。
「い、いいよ……! 言わなくて、そういうの……!」
「なんで? ……それだけ夏耶が欲しかったってことだよ。ずっと……こうしたかった」
「しゅんぺー……」
ベッドの上でぎゅうと抱き締められ、夏耶は今までからからに乾いていた砂漠のような心に、幸せという名のオアシスが湧き出すのを感じた。
彼女の頭の中ではもう彼の婚約者の存在はないものとされ、これから初恋を貫こうとしている自分たちの間に存在しているのは、“純愛”と呼ぶに相応しいものだと信じて疑わなかった。