恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……好き」
「カヤ……俺も」
「しゅん、ぺ……ぁ、ン」
ハジメテという割に、夏耶の身体はしなやかに動き、俊平の思うがままに形を変え、口からは甘やかな声がたえず洩れていた。
互いに長い間待ち焦がれた、身体をつなげる瞬間。そのときも、痛がる様子さえなかった。
きっとそれは、夏耶が自分を本当に愛している証拠――。
俊平はそんな風に解釈すると夏耶が愛しくてたまらなくなって、体力の続く限り彼女を攻めたて、白い肌にいくつものキスマークを残した。
そうして、夜が空を支配している間、何度も何度も求め合ったふたりだったが、その時間は永遠という訳にはいかなかった。
*
「……ゴメン、俺、今日仕事だから、タクシーで先帰るわ」
「仕事……あっ、私も」
午前四時を過ぎ、窓の向こうの景色が白けてきた頃。
先にベッドから抜け出てネクタイを締め直す俊平に続き、夏耶も慌てて素足を床につける。
キャンディみたいな色をしたペディキュアに彩られたその爪を、俊平は昨夜何度も口に含んで、夏耶をくすぐったがらせた。
「事務所、朝早いのか?」
「開けるのは九時なんだけど、所長が早く来るから、あんまり遅くなると申し訳なくて」
「ふーん……」
朝早く来る所長、その言葉のイメージから、恰幅の良い初老の弁護士を思い浮かべて俊平はあくびをかみ殺す。
そんな彼の元に、夏耶がハダカのまま一枚の名刺を差し出してきた。