恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


「……好き」

「カヤ……俺も」

「しゅん、ぺ……ぁ、ン」


ハジメテという割に、夏耶の身体はしなやかに動き、俊平の思うがままに形を変え、口からは甘やかな声がたえず洩れていた。

互いに長い間待ち焦がれた、身体をつなげる瞬間。そのときも、痛がる様子さえなかった。

きっとそれは、夏耶が自分を本当に愛している証拠――。

俊平はそんな風に解釈すると夏耶が愛しくてたまらなくなって、体力の続く限り彼女を攻めたて、白い肌にいくつものキスマークを残した。

そうして、夜が空を支配している間、何度も何度も求め合ったふたりだったが、その時間は永遠という訳にはいかなかった。







「……ゴメン、俺、今日仕事だから、タクシーで先帰るわ」

「仕事……あっ、私も」


午前四時を過ぎ、窓の向こうの景色が白けてきた頃。

先にベッドから抜け出てネクタイを締め直す俊平に続き、夏耶も慌てて素足を床につける。

キャンディみたいな色をしたペディキュアに彩られたその爪を、俊平は昨夜何度も口に含んで、夏耶をくすぐったがらせた。


「事務所、朝早いのか?」

「開けるのは九時なんだけど、所長が早く来るから、あんまり遅くなると申し訳なくて」

「ふーん……」


朝早く来る所長、その言葉のイメージから、恰幅の良い初老の弁護士を思い浮かべて俊平はあくびをかみ殺す。

そんな彼の元に、夏耶がハダカのまま一枚の名刺を差し出してきた。



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