恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「しゅんぺーも、何か困ったことあったら、ぜひ相良法律事務所へ!」
そう言ってふふっと微笑むと、俊平とのことがよっぽど嬉しかったのか、ろくに眠っていないということを感じさせない素早さで服を身に着けていく夏耶。
それに対し、俊平は名刺を食い入るように見つめ、胸をざわめかせていた。
(相良……法律事務所……まさか)
「……カヤ」
「んー?」
「所長の名前……今わかるか?」
着替えを終えた夏耶は、履きにくいパンプスに足を突っ込んでよろけながら、首を傾げる。
「しゅんぺー、知ってるの?」
「……いいから、名前!」
「……相良、桐人だけど」
それを聞いた瞬間、俊平は頭痛に見舞われたように片手で頭を押さえ、その場にしゃがみこんだ。
以前、わざわざ家を訪れてきた、胡散臭いくらいに容姿の整った弁護士の姿を思い出す。
慰謝料どうのこうのと事務的な口調でそれらしいことを言って、自分と琴子の関係を引き裂こうとした、あの男――。
(くそ……ハメられた……)
俊平はしばらく目を閉じ自分のうかつさを後悔していたが、しばらくすると立ち上がり、夏耶の身体を荒々しくベッドに倒した。
「……俺に近付いたのは、その“所長”の指示か」