恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
無意識にそう思いかけて、俊平は首を横に振った。
この未練がましい想いは、いい加減捨てなければ。その為には、新しい恋……新しい出会いが必要なんだ。
漠然とそう思った彼は、この地で日本語がわかる者など少ないだろうと、足を止めると海に向かって、少し大きめの声でひとりごとを呟いた。
「ああ……恋してぇ」
声に出して宣言してみると、俊平はなんとなく心が落ち着くのを感じた。
広い空も青い海も、寛大な心で自分の気持ちを受け止めてくれた気がしたのだ。
そのとき、そのすぐ後ろでは、真っ白なワンピースの裾がひらひら揺れていた。
つばの広い麦わら帽子を風に飛ばされないように片手で押さえながら、海に向かって恥ずかしい発言をする若者の背中をじっと見つめる日本人の女。
「……私も、したいな」
波の音に紛れて彼女がそう言ったのを、俊平の耳は聞き逃さなかった。
驚いて振り向くと、色白で華奢な体つきの、美しい日本人がそこに立っていた。
(やべ……聞かれてた?)
見た目から察するに、彼女はおそらく自分より年上。
きっとからかわれているのだと、俊平は急に恥ずかしくなって頭を掻いた。
「あ、あのー、今のは……なんつーか」
「……なんだ、嘘なの?」
「いや、嘘でもないですけど……」
「じゃあ、おいでよ私の部屋」
「……え?」
こんな急展開があるだろうか。
俊平はまじまじと女の顔を見つめたが、彼女にたじろぐ様子はない。
「こっち」
(おい……積極的なのは、日本人の女だったぞ)
俊平はここに居ない二人の友人向かってそう教えてやりたい気持ちになりながら、こちらの返事も待たずに砂浜を歩き出す彼女の後をついていった。