恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
「……死ぬとか、簡単に言うなよ」
知り合ったばかりの自分の言葉に、どれほどの力があるのかわからない。
けれど、俊平は琴子の命を攫おうとしている“何か”から彼女を守りたいと思い、札束の入った封筒を琴子に押し返して言った。
自分の発した“恋がしたい”に琴子が反応してくれたのも、きっと何かの運命。
そう思うと、目の前の琴子がどんどん愛しい者として彼の瞳に映るようになった。
「……ありがとう。同情でもうれしい」
きっと、今までにも同情から色々と言われてきたのであろう彼女は、そんな風に苦笑して部屋に戻って行く。
俊平はその後を追い、琴子がベッドルームに続く扉を開けたところで、彼女を背中から抱き締めた。
「……同情じゃないって」
痛いくらいの強い力。琴子はその潰れそうな苦しさが嬉しかった。
それに、さっき俊平がお金を受け取らなかったことも。
彼女は一般人に比べるとけた違いに裕福であるがゆえに、男性との付き合いに不信感を持つような出来事をいくつも経験してきた。
けれど、この年下の男の子は、かたくなにお金を受け取ろうとしない。
(私の“最後の人”は、彼なのかもしれない――)
首元に絡む俊平の腕にそっと自分の手を添えると、琴子は静かに語る。
「……たとえ同情、だとしても。私、“同情なんかいらない”って言えるほど、強くないから……」
そして、俊平の腕の中で体の向きを変えると、彼の背中に自分からも腕を回して、広い胸にぴたりと耳を寄せた。
「……あなたと、生きてみたい」