恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
彼女の耳に聞こえる鼓動は、その言葉に応えるように力強く音を刻んだ。
目を閉じ、そのリズムと俊平のぬくもりに世界が支配されると、琴子はイノチを分け与えてもらっているような感覚になった。
「琴子。……キス、していい?」
「……うん」
まだ外は明るく、ビーチの喧騒も聞こえて来たけれど、二人には何の後ろめたさもなかった。
ストン、と白いワンピースが床に落ち、晒された琴子の肌の上では、絶えずキスの音が弾ける。
二人はそのままベッドになだれ込むと、真っ白なシーツの上で琴子は俊平に抱かれた。
それまで、自分の肌の柔らかさなんて、忘れていた琴子。
俊平から与えられる刺激に体温は上がり、肌はピンクに染まっていき、脚の間はとろりと溶けて形をなくす。
そんな“快楽”というものを久しぶりに思い出した彼女は、今まで死んでいたあらゆる細胞が息を吹き返したような気がしていた。
(私はいま、彼に生かされている――)
知らず知らずのうちに彼女の瞳には涙が浮かび、それに気づいた俊平は、体の動きを止めて、彼女の目尻に唇を寄せた。
「俺……琴子のこと一生愛すよ」
「やめてよ……一生とか、嘘くさい……」
「嘘かどうか、証明してみればいいんじゃない?」
「どうやって?」
そんな方法あるわけないと、鼻で笑った琴子。
けれど俊平は穏やかに微笑み、こう言ったのだ。
「……結婚しよ」