恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜


一度寝ただけの相手と結婚するなんて、どうかしている。

心のどこかでそう忠告する自分がいることにも気が付いていたが、琴子は素直に俊平のプロポーズを受け入れた。


俊平は帰国を一日遅らせ、二人でグアムの観光名所である恋人岬へ行って、永遠の愛を誓う鐘をついた。

こんな鐘の音ひとつで愛が持続するなら、誰も苦労しない。

今までの琴子ならそんな反発心を抱いたはずだったが、隣にいる俊平が幸せそうだったから、それでいいかと思えた。

ささやかだけれど確かな喜びがそこにはあって、時間を掛けてそれを重ねていくことはきっと意味のあることだと、琴子はそのとき信じていた。







――今でも彼女は、頭の中でその鐘の音を好きな時に鳴らすことができる。

俊平との、はじまりの音。

生きていることを実感する音。

幸せを教えてくれた音。

それにノイズが混じるようになったのは、いつからだったろう。

愛は次第に形を変え、今の自分たちは、お互いを思い通りに動かすことに必死だ。

別れる、という選択肢はない。

だから余計に苦しい。


明け方同窓会から帰ってきた俊平が、長い時間をかけてシャワーを浴びている。

琴子はその間にベッドを抜け出し、ダイニングの椅子に掛けられた彼のスーツのポケットを探ると、足音を忍ばせて再び寝室へ戻って行った。



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