恋愛渋滞 〜踏み出せないオトナたち〜
桐人が何を言っても、夏耶の返事は気のない「そうですね」。
(……昨日、なんかあった……んだろうな)
昨夜が例の同窓会だったことは桐人の脳裏に深く刻まれていて、もしも今日夏耶が浮かれて仕事に来た場合、ちゃんと祝福してやろうと心の準備をしていた。
しかし、彼女の様子を見る限り、それとは逆のことが起きたのだろう。
すぐにそれを察知した桐人だったが、彼女を励ます方の準備はしていなかったと、うかつな自分を悔やんだ。
事務所に上がると、コーヒーメーカーの準備をしながら、彼はいつもの軽い調子を装って聞く。
「沢野、砂糖とミルクいる?」
「……あ、私、やります」
「いいよ、俺も飲むし」
「じゃあ……お砂糖、ミルク両方ありで」
「ん」
本当に聞きたいのはコーヒーのことなんかではなかったが、今の夏耶に“昨日どうだった?”なんて聞くのはデリカシーがなさすぎるだろう。
桐人はそう自分に言い聞かせながら、けれど本当は夏耶の身に何が起きたのか気になって仕方がなかった。
コト、と夏耶のデスクにマグカップを置くと、桐人は立ったまま自分のコーヒーに口をつけ、夏耶を見つめた。
「……元気ないね」
「そう、ですか……?」
「うん。可愛さ半減。もったいない」
いつものように軽い調子を崩さない桐人。
そんな彼の本心など知る由もない夏耶は、どこに向けたらいいかわからない苛立ちの矛先を、彼に向けそうになっていた。